2022年5月度 衛生委員会からのお知らせ

従業員 各位

日頃のご精勤に心より感謝申し上げます。

5月度の衛生委員会の資料になります。

5月度のテーマは「肝硬変について」です。

皆様に置かれましては、是非とも健康に留意いただき、

業務に努めていただきたいと考えております。

ご安全に!!

2022年5月度 

衛生委員会資料

産業医 坂井 伸好

 

肝硬変とはどんな病気ですか?

 

肝硬変とは、B型・C型肝炎ウイルス感染、多量・長期の飲酒、過栄養、自己免疫などにより起こる慢性肝炎や肝障害が徐々に進行して肝臓が硬くなった状態をいいます。慢性肝炎が起こると肝細胞が壊れ、壊れた部分を補うように線維質が蓄積して肝臓のなかに壁ができていきます。肝細胞は壁のなかで再生して増えるため、最終的に壁に囲まれた結節を作ります。肝臓がこのようなたくさんの結節の集まりに変化したものが肝硬変です。
壁に囲まれた肝細胞は、結節の中である程度以上増えると壁に邪魔されて、それ以上増えることができなくなるために、最終的に肝臓は硬く小さくなります。肝臓に流れ込む血管の一つに腸から栄養を運んだり、脾臓や胃などの臓器から血液を運ぶ門脈という血管があります。肝硬変では、肝臓のなかを血液がスムーズに流れなくなり、こうした門脈などの血管の流れが滞ります。
流れにくくなった門脈の血液は、体のあちこちにできる短絡路(シャント)を通って肝臓を通らずに他の静脈に流れてしまいます。この一つが、食道や胃粘膜の下にできるシャントで、血管が不均等に膨れる食道・胃静脈瘤を形成します。血管が大きく膨れてくると血管の壁に弱いところができ、ついに壁に穴が開くと大出血を起こして血を吐いたり(吐血)、胃に溜まった血液が黒い便となって排出(下血)されたりして、貧血やショックの原因となります。
肝硬変では、血液が十分に肝臓に流れ込まなくなったり、全体の肝細胞機能が低下するために、腹水、肝性脳症、黄疸、出血傾向など、さまざまな症状が現れてきます。このうち黄疸、腹水、肝性脳症が認められる肝硬変を「非代償性肝硬変」と呼び、症状のないものを「代償性肝硬変」と呼びます。

肝硬変の組織像肝臓には線維の壁(青色の部分)で囲まれたたくさんの結節がみられます

肝硬変の成因HBVB型肝硬変, HCVC型肝硬変
ALD
:アルコール性肝硬変
PBC
:原発性胆汁性胆管炎による肝硬変
AIH
:自己免疫性肝硬変
Others
:その他の肝硬変

 

肝硬変の診断や定期的検査はどのようにされるのですか?

 

肝硬変を診断するには、まず大量の飲酒や過去に受けた輸血、糖尿病など肝硬変になる原因がないか話を聞き、みぞおちに硬い肝臓が触れる、左の肋骨の下に腫れた脾臓が触れる、お腹に水が溜まって膨らんでいる、お腹の表面に沿って走る血管が見える、胸にクモが這うような(あるいは星芒状の)斑点がある、眼球の結膜が黄色いなどの肝硬変に特徴的なサインがないかを診察します。

 

次に、血液検査で肝臓の働きが弱っていないかを確認します。肝臓には蛋白質や脂質を合成する働きや、物質を処理して体外に排泄する働きなどがあります。合成する働きが弱くなると、血中のアルブミンや総コレステロールの値が低下し、血液を凝固させる蛋白も少なくなり、血液が固まりにくくなります。処理する働きが低下すると、ビリルビンという色素の血中濃度や肝臓の硬さを示すヒアルロン酸値などが上昇し、また腫れた脾臓は血小板を破壊して減少させます。これらの検査値はいろいろな条件に影響され、単独で肝硬変と診断することは不可能なので、いくつかの検査を組み合わせて診断に用います。

 

肝硬変になった肝臓は、表面がでこぼこしていて、左葉が大きく右葉が小さくなります。腹部超音波検査で肝臓の形や不均一な内部構造になっていないかをチェックします。腹水や腫れた脾臓も超音波検査で確認できます。CTでも同様のことがわかります。また、内視鏡検査で食道や胃の静脈が太くなる静脈瘤がみえた場合は肝硬変の診断の助けとなります。

 

これまで肝硬変の診断においてもっともよいのは、肝臓に針を刺して組織の一部を採取して、顕微鏡で線維の増え方を観察する肝生検とされてきました。一方、最近ではフィブロスキャンをはじめとして体の表面にセンサーをあてて肝臓の硬さを測定する新しい診断機器が次々と開発されています。これらの検査を状況に応じて取捨選択し、得られた検査結果を総合して肝硬変の診断を行っています。

 

肝硬変には肝がんが合併しやすいので、定期的に超音波検査やCTあるいはMRIで肝がんの有無をチェックします。小さいうちに肝がんを見つければ治療が可能です。肝硬変の原因により肝がんの合併頻度が異なるので、検査の間隔も異なります。また、定期的に血液検査を行い、肝がんのマーカーとされるAFPPIVKAⅡなどを肝機能とともに調べます。医師の指示に従って、これらの定期的な検査を受けてください。